ている。
 ひろ子は、胸がつまって来た。この土蔵の前から往還へ人々と旗とがあふれて、直次の第一回の出征が見送られた。その弟の進三が、母の登代と並んで実直な若者らしい体を正面に向けて入営記念写真をとられたのもこの道の上であった。
 タバコ店を出してある方のガラスが閉めきられて、よごれた幕がひいてある。出入口のガラス戸が一枚あいているだけで、その鴨居には、「名誉の家」と木札が出されていた。
「こんにちは――いらっしゃる?」
 声をかけながら、ひろ子はそっと店の土間に入って行った。せん来たときは、石炭、豆カス、麦、炭と、俵が積みあげられていた左手の板じきは、奥までがらんと空いている。よごれた柱が幾本も見えて、大きいカンカン量りが、隅っこにおかれている。左官材料のおいてあった反対側の土間もあいていて、脚のもげかかった籐椅子が一脚そこにある。
 余り使われている様子もない事務机の端に子供帽子がのっかっている、その店の間も人気なかった。いかにも生活の湧き立つ波はひいたところという寂しさが全身に感じられた。
 ひろ子は細長い土間を仕切っている立てつけのわるい障子をあけた。そこは台所であった。土間も流
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