脚の人が言をついだ。
「どういうもんでしょう。こういう情勢になりましたから国体論というような本は、みんな、かくしておかなけりゃいけないもんでしょうか」
 ひろ子は、駭《おどろ》きをもって、その質問をきいた。
 あのときはああいう本をかくし、今は又こういう本をかくす、という風にすぐ気がまわるほど日本人を卑屈にしたのは、何ものであるのだろう。
 質問は「教・総」にとっても思いがけなかったらしく、意外そうな顔をもたげたが、暫くして武骨に答えた。
「われわれは飽くまで国体護持に終始する」
 片脚の人は、「は」というような言葉で挨拶して、それなり黙りこんでしまった。それは片脚の人にとってほしい答えでなかったことは明かであった。そうかと云って、信念として、しかも「われわれ」の信念としてそう云われた言葉を、片脚の人は、どう押し返すことが出来たろう。同じ歴史の頁の上に顔を見合わせながら、互に扶けるどんな力もなくなったものとして、二人の間にはそれぎり言葉が途絶えた。
 全く黙りこんでしまった片脚の人は、いよいよ家族に遭う時が迫れば迫るほど、不安が胸にこみあげて来た風で、うなだれたままになってしまった。そ
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