室に来る女たちの顔ぶれが変化した。次第に、思想犯の妻や母の姿がまばらになった。その変化は、日本の侵略戦争の進度に応じるものであった。そしてだんだん贅沢な身なりをして、傲然としながら動きのない瞳をした商人の妻たちがふえた。
 思想犯の妻として、留守暮しをするひろ子のやや特殊であった妻としての生活は、いつともなく極めて微妙な相似性で、日本じゅうの、数千数百万の妻たちの思いと共通なものとなりはじめた。その妻たちの良人は、みんな外からの力で、いや応なし軍隊に入れられた。どこに進むのか本人にさえ知らされない輸送船につめられて、海峡をこえたり、太平洋をわたって赤道を通ったりさせられた。重吉を、うちからつれて行った力も、それと全く同じ強権であった。自分ののせられた自動車の行先について、説明を与えるものはいなかった。銃を与えられ、背嚢を負わされてそれらの良人たちは運ばれた。重吉は鉄の手錠をかけられ、編笠をかぶせられ、そして運ばれた。自分の意志や希望で行先が選べないことも同じであったし、行ったら自由に帰れないことも本当にそっくりそのままであった。思うままの心もちを披瀝《ひれき》し、話したい日常の経験につ
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