夜更け、大名竹の影のうつっている広い秋の蚊帳のなかにあった。白い覆いのかけられた小さい枕のところにあり、ひろ子の二つのてのひらの間にあった。重吉のまだ短く刈られていない髪は、すこし長く額の上に乱れかかって、それをかきあげるとき、指に軽かった。その髪に、ひろ子の指がふれてから、何年が過ぎたことだろう。
 無慚《むざん》、という言葉がある。そして、無慚な事実、というものもある。もし、今度、治安維持法撤廃によって思想犯が解放されるとき、重吉やその同志が、ほかに罪名をつけられているのを理由に出獄させられないとしたら、それは、無慚である。無慚すぎる。
 無慚すぎるそのことを、決してあり得ないことだと考えられない権力の発動のしかたの無慚さこそ、無慚そのものではなかろうか。
 重吉にひかれ、あこがれる情感のふかいはげしい濤のうねりと、無慚な権力の重さにあらがう思いとで、ひろ子は、もえる床の上におき上った。
 これまで十二年の間、面会に行った五分か十分の間、重吉の顔の上に混乱や苦悩があらわれていたことは一遍もなかった。その顔をうちみれば、ひろ子は苦しさを忘れるすがすがしさがあった。腸結核をわずらって、
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