播州平野
宮本百合子

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)安達太郎《あだたら》連山

|:ルビの付いていない漢字とルビの付く漢字の境の記号
(例)折々|四方山《よもやま》ばなしをしかけた。

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)万ガ[#「ガ」は小書き]一
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        一

 一九四五年八月十五日の日暮れ、妻の小枝が、古びた柱時計の懸っている茶の間の台の上に、大家内の夕飯の皿をならべながら、
「父さん、どうしましょう」
ときいた。
「電気、今夜はもういいんじゃないかしら、明るくしても――」
 茶の間のその縁側からは、南に遠く安達太郎《あだたら》連山が見えていた。その日は午後じゅうだまって煙草をふかしながら山ばかり眺めていた行雄が、
「さあ……」
 持ち前の決して急がない動作でふり向いた。そして、やや暫く、小枝の顔をじっと見ていたが、
「もうすこしこのまんまにして置いた方が安全じゃないか」
と云った。
「――そうかもしれないわね」
 小枝は従順に、そのまま皿を並べつづけた。
 台の端に四つになる甥の健吉を坐らせ、早めの御飯をた
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