るのよ」
「講さ入んねえばって生めるよ。入っていてくれたって赤ん坊は勝手に出て来るもんだ」
どっか後の方に坐ってるお神さんが云った。
「でも……講からはずれた××さんは、赤ん坊の頭だけ出て、あとえらい難産したアだとよ」
「そら、お前四日も食わなかった揚句だもの! 体に力がないところさ、どうして安々生れべ! 子安講さ入っててもわれわれが食えるようにはならねえよ」
「おーさ!」
「子安講をやるんだら、いっそ組合総体が入ってしるべ! あんな裏切もんの指図でしるこたねえだ」
「おーさ!」
月の光がガラス戸の外一面に流れ、宵の口は薄ら寒かったが、今はみんな熱心に喋るもんで水が飲みたいぐらいになって来た。××さんが提議して大きな西瓜が切られた。かれこれもう一時過ぎているのに西瓜の盆をかこんで活溌に討論し、陽気に笑い「さ、そろそろ帰るべ」とは云いながら誰ひとりランプの下から動かない。婦人部維持費五銭積立の件、××さん出産祝の件、組合内に購買組合を組織する件、日頃の団結の強さと未来の勝利への確信が何とも云えない熱となってこの屋根の下に燃え輝いている。
×
翌朝は日が出ると間なし起床だ。
いい天気で、朝靄が緩やかな畑の斜面や雑木林の彼方にかかっている。朝日のさす部落の梨の木の下で、昨夜集まった連中その他がわざわざ『文学新聞』のためだからといって集まり、写真をとった。
[#地付き]〔一九三一年十月〕
底本:「宮本百合子全集 第十七巻」新日本出版社
1981(昭和56)年3月20日初版発行
1986(昭和61)年3月20日第4刷発行
底本の親本:「宮本百合子全集」河出書房(巻数不明)
初出:「文学新聞」日本プロレタリア作家同盟機関紙
1931(昭和6)年10月10日創刊号
入力:柴田卓治
校正:磐余彦
2003年10月28日作成
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