の梢を、枝から枝へ飛び移って行く。栗の青いイガが草の中へ落ちている×××老人の家で夜まで遊ぼうというわけだ。四・一六の時、×××老人は婆さまもろとも引っぱられたが、六十日ブタ箱にたたきこまれている間一言も物を云わなかったというんで、部落の一つ話になっている。
「看守が来ると、おーい、年とって目が見えんからお前見とくろっちゃ、毎日虱とっとった」
 ×××老人は、皺だらけの顔で言葉少にその時のことを話し、愉快そうにハッハッと笑った。
 まわりの手入れの行届いた畑には、薯、菜、大根、黍《きび》、陸稲なんかが育ってる。部落組合員は、経済恐慌と闘争の激化につれて「闘いのための生産へ!」というスローガンで市場へ売り出す白菜や南京豆の代りに、こういうものを作りはじめたんだ。
   ×
 天井の棟から、五分芯ランプが下ってる。左翼劇場のビラの下に壁へ濃い陰影をおとしながらギッシリつめかけて坐ってるのは、婦人部の連中だ。二十すぎから四十前後の組合員のお神さんたちで、子供づれもある。隅の布団にくるまってもう二人の子がスヤスヤ眠っている。
 ××君の非常にうまい司会で、ソヴェト同盟の農村と婦人の話がすんだところだ。四・一六の前から、救援運動を通じごく実践的に組織されて来た婦人部だし、みんな年配で経験は深いし、ソヴェト同盟農村託児所の話、産院、休みの家、勤労婦人の種々な権利についての話は、実際の興味をひいた。
 ソヴェト同盟の話は、われわれの今日の情勢とひとりでに結びつき、戦争の話も出た。「市太郎やーい」の活動写真が村へ来た話をしてくれた。
「ただで見せるちゅうからやらずばなんめえてやったら、七銭とられただよ」
「しようねえな。支那とこんなことんなってはあ早速豆板(肥料)が上っただよ。こないだ××さんが買った時は一円二銭だったのがは、一円二十二銭しるだアよ」
「おーさ。石油も上りはじめただよ」
「こいでまた繭の値はがた落ちだし、どっち向いてもいいことはねえ」
 が、愚痴じゃない。そう云った五十ばかりのお神さん自身活々と輝いた眼をしてランプの下で笑ってるし、みんなも「おーさ!」と答えつつ、悄気ているどころか! 段々本気に子安講のことを討論しはじめた。部落で一戸ある裏切者を中心に四五人がかたまってその講をたて飲んだり食ったりしているんだそうだ。
「――みんなあ、産が安かんべと思って、講さ入って
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