悲しめる心
宮本百合子

−−
【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)玩具《おもちゃ》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)段々|彼方《あっ》ちへ

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)あの手[#「手」に「(ママ)」の注記]
−−

          我が妹の 亡き御霊の 御前に

 只一人の妹に先立たれた姉の心はその両親にも勝るほど悲しいものである。
 手を引いてやるものもない路を幼い身ではてしなく長い旅路についた妹の身を思えば涙は自ずと頬を下るのである。
 今私の手元に残るものとては白木の御霊代に書かれた其名と夕べ夕べに被われた夜のものと小さい着物と少しばかり――それもこわれかかった玩具《おもちゃ》ばかりである。
 柩を送ってから十三日静かな夜の最中に此の短かいながら私には堪えられないほどの悲しみの生んだ文を書き上げた。
 これを私は私のどこかの身にそって居る我が妹の魂に捧げる。
 仕立て上げて手も通さずにある赤い着物を見るにつけ桃色の小夜着を見るにつけて歎く姉の心をせめて万が一なりと知って呉れたら切ない思い出にふける時の
次へ
全36ページ中1ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング