の中で春から夏に懸けて、人々は、大抵の女は、何かと云うとそう云う種類の話を持ち出すのである。
「はあ、何ちゅう当ったこったか、
 お婆さんは、太い溜息を吐いて、又手拭で顔を拭いた。
「私が、今年は足ろくさん[#「ろくさん」に傍点]に当って居る事から、とっさまの事から、はあ、すっかり当てやしてない、……お前さんは、まだまだ心が堅まんねえ、量見が定まんねえから、駄目だって云われやしたの
 お婆さんは、その身持ちの若松とかから来た若い女の「伺い」にひどく心を動顛させられたと見えて、神経的にボロボロ涙をこぼしながら、聞いて来た一伍一什を話して聞かせた。
 その話しようが真個にもう恐ろしさや、驚きに負け切って、到底黙って辛棒して居られないと云う風なのである。
 私は心の中で、漠然とした、然し可成に重苦しい陰気さを感じながら、お婆さんが旧の七月か九月には騒動が起って、自分の身が定るだろうと云われたと云う事を聞いて居た。
 自分の未来等と云うものに対しては、如何那人でも本能的に知り度い心持を持って居るだろう、知り度い、非常に知って見たい、怖いもの見たさの心持があるのだ。其で居て、いざ知らされると、堪らないのだ。おばあさん、おばあさん、自分は又土に下りて、「うこぎ」の枝を切り始めた。



底本:「宮本百合子全集 第十八巻」新日本出版社
   1981(昭和56)年5月30日初版発行
   1986(昭和61)年3月20日第2版第1刷発行
初出:同上
※手書き原稿から起こしたこの作品において、底本は「始めかぎ括弧」以下の会話分を、1字下げで組んでいます。ただしこのファイルでは、当該箇所に字下げ注記は入れませんでした。
入力:柴田卓治
校正:磐余彦
2004年2月15日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
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