脳裏に深く刻みつけられるものであった。ああいう奇妙な常識をはずれた区わけをしたのは、憤りより寧ろ憂いに近い感懐を抱かせたと思う。あれはどうなったのだろう。あれときょうとの間に、どんな健全な経過が辿られたのだろうか。誰しもが知りたいところであろうと思う。
一つの国で、紙の色が段々すっきりしなくなって来て紙質も低下して来たような時期に、どんな内容の本を出して来ているかということが、殆ど例外なくその国の進展の十年二十年さきを予言しているように思われるのが、世界の歴史の実情である。紙のわるいときにも本当にいい本が出されつづけたか。それとも、紙のわるさにふさわしい屑が出たかということは、粗笨《そほん》な主観に立って気に入らない本は出ないようにする快味以上に、未来に向って深刻な意義をもっているのである。
底本:「宮本百合子全集 第十四巻」新日本出版社
1979(昭和54)年7月20日初版発行
1986(昭和61)年3月20日第5刷発行
底本の親本:「宮本百合子全集 第九巻」河出書房
1952(昭和27)年8月発行
初出:不詳
入力:柴田卓治
校正:米田進
2003年5月26日作成
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