。これはみんな十数年むかしのことである。日本の天皇制の権力は、自然のうつくしい「肉親の情」をなんと悪らつに、権力のために利用して来ただろう。親や家族のものが、本人にとってたえがたい裏切りや転向のために、いろいろとたくらむのは、みんな権力がその人たちをおどすからである。集団的な自主の行動を、おそろしいことのように、わるいことのように思わせるからである。
憲法・民法が個人の自由を示しているこんにちでさえ、入党を親にかくさなければならない娘たち、夫にかくれて党を支持する妻がある。こういう条件におかれている進歩的な人自身、またその仲間たちは、あらゆる場合に、生活の現実から、権力におどかされている肉親の人々にこの実際をわからせようとしている。それは全く人民の新しいモラルの一つである。
帰還者の妻たちがそれぞれの夫の胸にむしゃぶりついて、列から引っぱり出す写真はとられていない。これは現実の雄弁な説明である。
やっとめぐりあってうれしい自分たちの夫婦にあるものは、ともどもの生活難であることを知っている妻たちは、帰った日に発揮される良人たちの人民としての権利を新しい思いでみたのであろう。やがては出迎の妻も子も夫と父や兄の列伍に加って行動する日も来るのである。[#地付き]〔一九四九年七月〕
底本:「宮本百合子全集 第十六巻」新日本出版社
1980(昭和55)年6月20日初版発行
1986(昭和61)年3月20日第4刷発行
底本の親本:「宮本百合子全集 第十二巻」河出書房
1952(昭和27)年1月発行
初出:「文京民報」日本共産党文京区委員会機関紙
1949(昭和24)年7月11日号
入力:柴田卓治
校正:磐余彦
2003年9月14日作成
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