ることでしょう。重工業の工場で女がよく働くようになっていることは、もう御存知ですね。
隆ちゃん、あなたの馬は丈夫でしょうか。この間もニュースで、泥濘のなかを馬の口をとって一心不乱に前進している兵隊さんの顔を見て私は隆ちゃんのことを思いました。さぞ、こういう時もあるのだろうと思って。あなたの丈夫なのは分っているが、馬もどうぞ丈夫なように、と心から思います。お兄さんに時々手紙かきますか? いつか達ちゃんの手紙に、あなたが、うちにいたときはまとまった口もきかないようであったのに、そちらへ来てからよこす手紙には面白いことが書いてあって、と嬉しそうでした。
どこかわからないが、今あなたのいるところは、日露戦争の時、亡くなった御父上の行かれたところだそうですね。さぞ深い感慨をもって山々を眺めていることでしょう。(もしその辺に山があるならば、というわけです)
野原の様子も随分変りました。あの辺一帯は全く新興地帯で、トラックの往復もはげしくなったので、島田川の堤の上の道幅がカーブのところではすこしずつひろくなりました。島田市の先からもうチラホラ朝鮮の人のバラックが建っていて、夕方など通りがかると夕餉の煙と明笛の音がきこえたりします。
前の河村さんで兎を相当どっさり飼っていることは知っているでしょうか。線路沿いの三角の空地のところに、段々の巣箱をつくってそのなかにアンゴラや何かがいます。去年は雨が多すぎて兎の体にわるかったそうですが、今年は又土瓶水という有様で、兎はどうだったでしょう。
うちの鶏は、夏の間も毎日二つずつぐらい玉子を生んだそうです。東京は今玉子が百匁で三十七銭です。公定価格です。真黒いひよっこがかえったそうです。真黒な小さい黒ん坊のようなヒヨコは可笑しくて可愛いそうです。
寒気のきびしい間、どうか益々体に気をつけて下さい。
[#地付き]〔一九四〇年一月〕
底本:「宮本百合子全集 第十七巻」新日本出版社
1981(昭和56)年3月20日初版発行
1986(昭和61)年3月20日第4刷発行
底本の親本:「宮本百合子全集 第十五巻」河出書房
1953(昭和28)年1月発行
初出:「輝ク部隊」第一輯
1940(昭和15)年1月1日発行
入力:柴田卓治
校正:磐余彦
2003年9月15日作成
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