白鵞鳥がやって来ました。そして、彼に新しい一組の笛をくれました。
半馬鹿の笛吹きを肩車にのせ、プカは間もなくダンモーアに着きました。そして、笛吹きを始めに出会った小さい橋の上に降し、
「お前は今迄持っていなかった二つのもの――悪い事をしてはいけないと考える良心と音楽とを授かった」
さあ家に帰れと云いました。
彼は真直家路につき、阿母さんの家の戸を叩いて呼びました。
「入れてお呉れ。私は王みたいに金持ちだ。アイルランドで一番上手な笛吹きだ」
阿母さんは中から答えました。
「お前はお酒に酔っているね」
「其れどころか! 一滴だって酒なんか飲みはしない」
阿母さんは彼を家に入れてやりました。彼は母親に、貰って来た黄金を与え
「待ってくれ、私がやる音楽を聴くまで待ってくれ」
と願いました。
笛吹きは笛の上にかがみこみ、吹き始めましたが、音楽が響くどころか笛の中からはアイルランド中の雌雄の鵞鳥が一どきにガアガア鳴き立てるような騒々しい音が起りました。このひどい騒ぎで近所の人が起きて来ました。
そして、笛吹きが元から持っていた笛で今度はちゃんと美しい節廻しの音楽をきかせてやる迄、わあわあ半馬鹿の彼をからかいました。二通りの音楽がすむと、笛吹きは皆に、その晩自分の出会った事柄をすっかり話して聞かせました。
翌朝のことです。彼の阿母さんは、ゆうべ彼がパトリック山から貰って来た黄金の片を見なおそうと仕舞って置いた処に行きました。処がどうした事でしょう。黄金のあった場所には何もない、只木の葉ばかりが遺っていました。
笛吹きは教父の処へ出掛けて行って昨夜からの仔細を話しましたが、教父は彼の云う一言も本当にはして呉れません。笛吹きは笛をとり出して吹きました。笛からは、雌雄鵞鳥の鳴き声がグーグー、ガアガア鳴り出しました。
教父は
「出て行け。帰りなさい。悪もの奴!」
と怒鳴りました。が、笛吹きは云うことをきかず、元の笛を出してよい音で吹き鳴らして見せ到頭自分の云った事が皆本当であるのを教父に判らせました。
その時から彼の死ぬ迄、ガルウェーに彼ほどうまい笛吹きは他に一人もいませんでした。
ジェラルド太守の魔法
アイルランドの昔、フィッツジェラルド家に一人の偉い人がいました。彼の名はジェラルドと云うのでしたが、その家の人を皆好きであった其時のアイルランド人は、彼をジェラルド太守と呼びならわしていました。彼は、ムリイマストに大きな城を持ってい、英国の政府が無理を云ってアイルランドを苛めようとすると、いつでもそれに向って国を守るのは彼でありました。彼は戦いの素晴らしい大将であり、上手な武術者であった上に、非常に魔法が出来ました。そして、彼が好きなものに何でも自分の形を変える事が出来たのでした。
彼の夫人は、この事を知っているのでよく良人に、自分もその珍らしい秘密のお仲間入りをさせて下さいと頼みましたが、彼は決して其を許しませんでした。
夫人は、特別ジェラルド公が何か異う物の形になっている処を見たがりました。然しジェラルド太守は其那時には何とかかとか云って彼女を去らせて仕舞います。女は辛棒づよいものですから幾度いけないと云われても願うので、到頭太守は、彼が人間の形から違ったものになっている間に、若し彼女が一寸でも吃驚《びっくり》したり恐れたりすると、もう彼は幾百年も元の人間の体には戻れないと云う事を話して聞かせました。其那にじき驚いたり可怖《こわ》がったりするようなら彼女は偉いジェラルド太守の夫人にふさわしくありますまい、どうか思いつきを遂げさせて下さい。彼女が如何那《どんな》に勇ましい婦人であるか太守もわかるに違いありません。
そこで或る美しい夏の夕方、彼等二人が立派な客間にいた時、ジェラルド太守は不図彼女から顔をそむけ、何か言葉を称えました。瞬く間に彼の姿は綺麗さっぱり見えなくなり、部屋の中には一羽の可愛い金翅雀《まひわ》が飛び廻っています。
自分で自分は十分落付いていると思っていた夫人も一寸これには驚きました。が、素早く自分の心を制しました。ジェラルド太守の金翅雀が飛んで来て自分の肩に止り、羽ばたきをして何処でも聞いた事のないような好い声で囀り出した時には猶更のことです。
彼はぐるぐるまあるく部屋を飛び廻り夫人と隠れん坊をして遊びました。庭へ飛び去ったかと思うと又忽ち戻って来、夫人の膝に眠ったように羽根を休めたかと思うと、サッと舞い立って翔び廻ります。
二人が満足する迄斯うして遊ぶと、彼はもう一遍戸外へ飛んで行きました。けれども、ほう、今度の帰るのは速いこと! 彼は矢のように夫人のところへ飛び込んで来ました。すると、すぐ後を追って恐ろしい一羽の鷹が入って来ます。夫人は、我を忘れて大声に叫びました。この駭
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