ッションに頭をもたせかけたまま、いつかうつらうつらしたらしい素子が、
「どのへんだい?」
上体をおこして、窓の外をみた。そして、
「もうじきだ」
またクッションにもたれこんだ。
伸子は、目的のところが近づくにつれてまた段々遠方へ出発する前のあわただしい心持になって来た。そして、和一郎にたのまれたことは、忘れずあしたでも行ったとき多計代に話しておかなければならない、と思った。おととい動坂へ行ったとき、和一郎は出会いがしらに伸子を廊下でつかまえて、人気のない客間につれこんだ。そして灯もつけず、椅子と椅子との間に立ったまま、自分はどうしても従妹の小枝と結婚する。多計代たちはきっと反対だろう。どんなに反対したって、譲らないから、そのことを、伸子が行ってしまう前多計代に予告しておいてくれというのだった。
「その決心――かわりようがない?」
伸子はしばらくだまっていた後、しずかにききかえした。伸子は血族の結婚には不安を感じるのであった。
「かわらない!」
伸子の不賛成をぼんやり感じた和一郎は、にらむように姉に目をすえながら、低い熱い声でくりかえした。
「僕の命がある間は、このこころもち、変えようないんだ」
伸子とすれば、それをそのまま多計代に告げておくしかなかった。問題を根本からこねかえすためには、もう時間のゆとりがなかった。伸子は、あと四五日で東京を立たなければならず、大型のハンドバッグの中には、トゥリスト・ビューローで買った東京モスクワ間の切符が入っているのだった。つづけて伸子の心に、保のいったことが思い出された。やっぱりおととい、伸子は手まわりの荷物をつめた大小のスーツ・ケースと一緒に、本をつめた行李を二つタクシーで動坂へ運んだ。その行李にはもしかいることがあるかと思って、ビール箱につめてしまわなかった文学書が入っていた。伸子が、その行李を、中玄関横の板じきにおいているところへ、保が出て来た。伸子は、
「あら、丁度よかった」
いつもの単純な調子でいくらか一人のみこみに、
「この行李、保さんあずかってよ」
といった。
「もしかしたらあとから送ってほしい本を入れてあるの。たのむわね」
どうしたのか保は、そのときすぐ返事をしなかった。伸子はかさねて、
「ね、おねがい」
といった。すると保は、なんとなくその行李の繩に手をかけ、重みでもはかるように背を曲げて下を向い
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