けれど、本当に一生懸命にやりますから」
ウメ子は、美しい上まぶたをつり上げるようにして真実こめていった。
「本が出たら、すぐお送りします。わたしのロシア語なんてあやしいんですけれど、宛名ぐらいかけるでしょうから、思いがけない役に立つわけです」
諧謔《かいぎゃく》的にそういって、ウメ子は小さい金歯をみせながら、ちょっと舌を出すように笑った。
引越しのトラックが来る日がきまったとき、伸子は重い気もちで動坂へ行った。駒沢の家かたづけの第一日は動坂へ荷物を送り、第二日は日本橋の素子の従弟の倉庫へ。そう順序だてられた。多計代は、きっといつもの調子で、そのビール箱の中のいくつが、素子の本かときいたりするのだろう。そう思って伸子は気のはずみの失われた顔でその話をきりだした。
「そのビール箱っていうのはいくつぐらいあるの?」
何となく、多計代のうけ答えは軽快であった。
「全部で、十ばかりなの」
土蔵の空きまを一寸考えてみる風だったが、
「そのくらいなら大丈夫だよ、もっといで」
多計代は淡白に承知した。
「災難はいつおこるかわからないから、第一土蔵が落ちるような火事でもあったらそのときのことだけれど――そしたらまあ、お互にあきらめて貰うことさね」
あらためて多計代は、
「伸ちゃん、いつからこっちへ来るのかい」
ときいた。
「駒沢をひきあげるならひきあげるでいい加減にこっちへ来てくれなくちゃ。電話のとりつぎだけでも、困っちまうのさ。いつ伸子さんはお立ちですかってきかれたって、おりません、わかりませんだもの。それに、お父様もいらっしゃるとき、せめて一枚家じゅうの写真ぐらいとっておきたいし……」
素子と伸子との旅行の噂がひろまって、問い合わせが電話のある動坂のうちの方へ来るらしかった。そういう外の空気の動きは、多計代の気持に影響した。多計代流に派手にうけとっている外国ゆきということのなかで、素子だけ差別をつけきれなくなっている。しかし、伸子は動坂の家には最少限しか逗留しないですむように日程を立てていた。
うち合せをすまして伸子が帰りかけているところへ、六尺近い体と、つき出た腹と、ブランデーやけのした顔色とで、日本人というよりいくらかジョン・ブルめいた砂場嘉訓が訪ねて来た。
「こんにちは、奥さん」
砂場は、さきごろまで二十年近くイギリスに暮して、イギリス人を妻にしている洋
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