ながら、素子はそのまましばらくタバコをふかしていたが、やがてきめた以上はそのようにという風に、
「さて、いよいよ旅費が問題だね」
ときりだした。
「名案はないものかな」
伸子のきもちは保から実際問題にうつされた。
行こうという決心がかたまりかかるにつれて、伸子も当然旅費のことは考えた。この旅行は、はじめっからしまいまですっかり自分のものとして経験し、どういう結果についても掣肘《せいちゅう》をうけたくない気持がした。伸子は、どうしても自分の力で、旅費をつくらなければならなかった。そのためには、新聞社や雑誌社と契約して海外特派員となる方法があった。けれども、伸子にどんな特派員らしい記事がかけるというのだろう。言葉さえろくに出来ないのに、経済だの政治について、なんにも知っていないのに。
「汽車賃ぐらい、あの月がけで何とかなるけれどね」
それは素子が主張してつづけていた、小さな銀行の集金貯金のことであった。
旅費の工面はあてがないまま、伸子たちは、ともかく旅券の申請をした。夏草のもうすがれはじめた庭の軒さきで、かわりばんこに撮った下手な素人写真を添えて書類を出した。下附までには凡そ一ヵ月以上かかるという話であった。それまでに旅費の見当がつくかもしれないというわけだった。
二人がゆくとすれば、この郊外の家は当然たたまなければならない。本や荷物をどこへ預けよう。素子は、日本橋の従弟の店の倉庫と、老松町の、伸子がもと二階がりをしていたお裁縫やへあずかって貰うことにした。伸子の分は動坂へやる。そんな相談が始められるようになったある日、伸子が、長い小説を連載していた雑誌社の社長の木下徹が、伸子たちの家を訪ねて来た。
鼠っぽい夏服をつけた背の低い木下徹は、自動車から降りて来たままの帽子なしの姿で、
「やあ、おられますか」
南国の訛を声にひびかせながら、玄関に立った。
「ちょっと用事があって玉川まで来たもんですからね……なかなか閑静なところじゃないですか」
珍しそうに、女住居に塵のしずまっている家の中や、荒れた庭を眺めた。伸子は、市中のビルディングの一室で、どっちかというと事務的な会いかたばかりして来ている木下を、自分たちのうちの椅子にかけさせつけなかった。とりとめない話の末、木下は、
「やあ、どうもこれでなかなか問題が多くてね」
頭のうしろへ組み合わせた腕をはって、椅
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