ていい?」
ときいた。
「あんまりくたびれたから……」
 多計代は、すこしびっくりして、
「さあ、さあ、おねなさいとも。――でも大丈夫なのかい、ただねるだけで」
「いいの、いいの」
 青桐の葉ごしの光線でその座敷にしかれた蒲団のシーツの白さが緑に光るようなところで、伸子は、団扇を顔の上において、本当にすこし眠った。

 となりの室で多計代が何かいっている声で伸子は、目をさました。
「なるたけもって行くまいよ、ね、きりがありゃしないもの」
 つや子の学校も夏休みになり、近日中に、東北の田舎の家へ出かける、その仕度であった。
 伸子は、真夏のひるねからさめた新鮮な顔つきでそこへ出て行った。
「いつお立ち?」
「四五日うちには立たなくちゃなるまい」
「ことしは誰が行くの」
「さあ……ともかくわたしは出かけるよ、またあせも[#「あせも」に傍点]がこわいから」
 多計代は糖尿病をもっていた。あせも[#「あせも」に傍点]がよって、悪化して、大変苦しんだことがあった。それから、夏の間は東京にいないことになっているのだった。
「お父様はだめ?」
「それゃ、一寸はおいでになるだろうけれどね、例のとおり忙しいから――保さんは来るよ」
 そういえば、伸子が来たときから保が見えなかった。
「保さん、うち?」
「ああ」
 満足そうに多計代は、
「あのひとは相変らずさ、よく勉強している……この節は毎朝六時すぎに出かけて、ドイツ語に通っているよ」
 フランス語の文丙にいる保がドイツ語をはじめた、ということは一応高等学校の上級生らしいことであった。けれども伸子は、ドイツ語ときくと、そこに越智を連想され、ひいて、保の日頃から思弁ぐせにつらなって考え、単純にきけなかった。保は、このごろも越智のところに出入しているのだろうか。
 伸子は、うちにいるという保に会うつもりで、いつもの二階の北側の小部屋へ行ってみた。鴨居にはられているメディテーションという貼紙のはしが暑気に乾き上って少しめくれかかっている。机のよこの障子は、はずされていて、内庭の八つ手の梢の上に高くそびえているタンクでモーターが鳴り、風呂水をくみ上げている。保はそこにいなかった。保がいないで開放されている書斎を見まわして、伸子は、そこにあるどの本棚も、例によって教科書ばっかりなのに、いまさら不思議な気がした。この前、ここで保としゃべったりした
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