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 櫛をつかいながら及び腰に、素子がひろげたまま、見せるその朝の新聞に目をおとし、伸子は、表情を変えて、そこへ膝をついた。
「やっぱりこういうことになっちまった」
 素子が呟いた。伸子は沈黙して、上下の唇のまわりに白い輪のでたような顔つきになって、紙面に大きく複写されている作家相川良之介の写真を見つめた。痩せて、髪を特徴のある形でよく発達した前額の上にたらし、一種の精気と妖気とをとりまぜて、写真の上にも生々しくうつし出されている。当代においても最も芸術的であると云われていたこの作家が自宅で昨夜劇薬自殺を遂げた。その報道である。
 肩に髪を散らしたまま、伸子は紙面全体に目をはしらせた。故人の親友の一人であった久留雅雄が、記者団と会見をしている写真を見、遺書として公表されている「ある旧友への手紙」という長い文章を読んだ。伸子は、全身にうけた衝撃を内容づけて、それで自分を落ちつかせるに足りるなにかをさがすように、新聞をよんだ。けれども、そこにかかれてあるすべての詳細な記事や久留雅雄の談話はもとより、「ある旧友への手紙」そのものでさえも、伸子のうけた衝撃の裏づけとなるだけの質量をかいていた。
 伸子は、涙をおさえた悲しい顔をかしげて、しずかに櫛をうごかし自分の髪を梳いた。ほんとに、なんといっていいかわからない気がした。思いがけない、とか、本当にされない、とか云えるならばそれはいくらかうけた衝撃をまとまりやすい感動の言葉で表現できただろう。相川良之介の場合には、この作家の精神と肉体との危期が書くものにもにじみ出しはじめていることは、彼の芸術を理解するほとんどすべてのものが最近になって直感していた。鋭い稜角を常に示しつづける彼の知性の頂点と人間的な危期とは、最近この作家の作品とその風格の上に云うに云えない鬼気となって漂った。そして、それこそはこの作家の純芸術家としての光彩であるように目をみはられ、讃えられた。そのぎりぎりのところまでいって、とうとうこの作家は生きられなかった。生きられなかったのは、常識にたって、彼の死に驚愕し悲しみ、記者対談をやっている旧友の誰彼でもなければ、こうやって新聞をみて声をのんでいる伸子のようなものでもなく、人々から賞讚され、どっさりの追随者と模倣者とを身近にもっていた、作家そのひとである。
 伸子は、刃のごく鈍い大きい桑切の庖丁のようなもので、か
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