の動作につれて自分でもたのしんでいるような妹というひとのどこかゆるんだとりなしは、つつましくまめな主婦の気分で統一され、それを意識している姉とひどくちがった。一つ家の中で、小川豊助を中心にして、姉と妹とが、女としてそういう対照的な存在となって生活しているように感じられ、それは、素子が関西の生家を出て暮している理由にも似ていた。素子を生んだ母は、色の浅黒い、地味で実直な町家の主婦であった。あとの弟妹たちを生んだひとは、姉と反対の色白で、ぽっちゃりしていて、音曲《おんぎょく》の上手なひとである。
 素子は、早速買って来たタバコの箱をあけてすいながら、古い友達の調子で、小川豊助とあれこれと仕事上の話をしていた。
「あなたにしちゃ珍しいもの訳したんですね」
「ああ。あのレーニンですか」
 小川豊助は、すこし顔をあからめて、はげている頭をなでた。
「是非ってたのまれましてね。柄にないもんだがやってみたんです。やってみると、面白いですね、文学の下らないものよりよっぽどためになったし、面白かった」
「でも、あの題、何だか文学くさいじゃありませんか」
 伸子も同感で、ほほえんだ。二三日前の新聞に彼が訳したレーニンの本の広告があって、その題が「一歩は前へ、二歩は後へ」とあった。伸子はおかしがって、
「どっちへゆくんだかわからないみたいだわ」
と笑った。素子も、
「オブローモフだ、これじゃ」
と笑った。そのことをいっているのであった。
 夕飯の食卓に、それもハルビン時代のものだというウォツカ用の切子《きりこ》の瓶が出た。それには葡萄酒が入れられていた。白い卓布をかけた卓に、小さいコップが並べられて、台所と茶の間の往復は、水色のエプロンをかけた細君がした。妹のひとが、小川と素子の間に坐って、とりもち役にまわった。
 葡萄酒ですこし赤らんだ素子が、
「あんなに姉さんにばかり働かしといて、いいんですか」
とじょうだんのようにいった。するとしめた障子のむこう側から、
「いえ、いえ。こっちは一人で十分なんでございますから……どうぞ御心配なく――」
 下を向いた手もとでは細かく何かしているらしい声で細君が答えた。
「わたしは、なにも出来ないもんですから……」
 妹のひとは、そういって声を立てずに笑った。そして、ちらりと小川豊助を見あげた。小川豊助は、素子からもらったタバコに火をつけて、それを右手の
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