をおろしている。ふっさりと大きい庇の前髪の下に、多計代の顔は堂々と沈静されていて、そのかげに無限の軽蔑がふんまえられているのが感じられた。
その午後、多計代は珍しく戸棚の前に坐って、息子たちの下着類をよりわけたり、雑巾に縫う布を見つけたりした。伸子はそのわきにくっついて見物していた。そういう家政のことをしている多計代の表情には、何ヵ月かの間、彼女にとって目に入って来なかった家の内の些細なことごとが、いま、はっきり見えて来ている、という風があった。丁寧に、真面目に、いつもより言葉すくなくシャツを畳んだり、布地をわきへどけたりしている。その母の様子には、伸子の心をうつものがあった。越智にたいして、苦しく燃えあがっていた多計代の憧れの焔は、おそらくは多計代として女の若さが自覚される最後の情熱のはためきであった。その不安な激しい生命のゆらぎは、越智の人間の小ささと、感情の冷やかさで哀れにうちくだかれた。けれども、こうして、堂々と軽蔑の上に落ちついた母を見ていると、伸子はやっぱり悲しかった。多計代のあんなに激しい、本気だった女としての動揺も、土台のところでは、決して全生活がそこにかけられているものではなかった。辛辣にいえば、物質の上でみち足り、妻として良人からその肉体もみたされている年配の有閑な夫人が、自分の生活に欠けているものに憧れてそれに敗れたことではないだろうか。もしそうでないなら、伸子には、母が、越智にたいする軽蔑ばかりをつよく示しているのがわからなかった。多計代の眼のなかに苦しさと歎きのないのが、伸子にせつなかった。年や境遇に矛盾するような女としての若さが、計らずもそれを最後と燃えたった。その自分の情に深い哀れを感じてもいないらしいのが、伸子をいたませた。越智が軽蔑される心情をもっていることは事実であるけれども、第三者の目は以前からそれをみていた。多計代は、自分の真情が侮蔑されて、はじめて越智の本質を見出したのだった。軽蔑すべきものに自分の女の心がそんなにも傾いたというその事実を、多計代はどんな風に自分の心の奥にうけとっているのだろうか。つきつめれば奥のふかい自分への失望と歎きを、越智への軽蔑によって支えているように思えて伸子はこわかった。まして、多計代が越智一人への軽蔑を多計代らしく敷衍《ふえん》して「男なんて」というとき、伸子は漠然と恐怖を感じた。伸子は佃とこ
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