った。
「まだ……」
「その三四人のひとだけ書くの?」
「そうしようと思ってる」
「ほかのひとに書かせないの?」
「もちろん書かせたっていいんだけれど――」
癖で、紺絣の大きい膝をすこしゆすりながら、保は柔和なぽってりした上まぶたの下に眼を三白のようにした。
「みんな、すぐ猛烈に議論するんだもの、相手を一生懸命にまかそうとばかりするんだもの――」
「…………」
「こないだも、僕、佐々は馬鹿だ、ってみんなにいわれた」
保のそういう声のうちには、友だちにたいする反抗よりも、いうにいえない悲しみがこもっていた。伸子は、思わずその顔をのぞきこむような心になった。
「どうして?」
熱心にきいた。
「僕は、調停派なんだって。……佐々は生れつきの調停派だって――」
「それは、佐々はバカということになるの」
「そうらしい」
ちっとも皮肉なところなしに保は肯定した。
「調停派って――」
社会運動の歴史も知らない伸子には、どういう意味で高校の学生たちがその言葉をつかうかわからなかった。しかし、字の上から判断して、調停の意味は、だいたいわかる――、
「保さん、そんなに調停するの」
すこし笑って伸子がきいた。保は、
「そうしようと思わなくたって、そうなっちゃう」
困惑したようにいった。
「どっちの議論だって、よくきいてみて、相手に勝とうとさえ思わなければ、みんなそれとしては理窟があるんだもの」
「それゃそうかもしれないけれどさ……」
伸子は妙な顔をした。保のあの不思議に執拗な「公平」がまた出て来た。
「だって、――議論なんてものは、真中に一つ問題があって、それをはっきりさせるために起るんでしょう? だもの、てんでんばらばらに、一つずつの議論がそれとして理窟をもっているというのが眼目にはならないんじゃないの。中心の問題にとって、正しいとりあげかた、正しい解釈というものが当然ある筈じゃないの」
「うん」
「だからさ、正しい結論が出るまでの議論には、見当ちがいなのもあるわけでしょう? そして、それはすててゆくのよ。みんなそれとして[#「それとして」に傍点]理窟がある、というようなのは、変だわよ。――そう思わない?」
「…………」
「保さんが、みんなの議論してるとき、あれもこれもそれとして[#「それとして」に傍点]正しいなんていえば、それは調停派だか何だか、ともかくおかしなことだし
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