二つの家を繋ぐ回想
宮本百合子
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)二月《ふたつき》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)朝から様子を見に行って居たとり[#「とり」に傍点]が
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厭だ厭だと思い乍ら、吉祥寺前の家には、一年と四ヵ月程住んだ。あの家でも、いろいろな事に遭遇した。此の家に移ってからも、二月《ふたつき》と経たないうちに、上野で平和博覧会が開かれた。続いて又、プリンス・オブ・ウェルスが四月十二日に来朝される。――
福井から、Aの父が、一遍は我々の家に来て見たい希望のあることは、去年から知られて居た。丁度五月頃、自分が開成山に行って居る時、Aは、独りで寂しいから、来られませんかと云ってあげたのだそうだ。自分は其を知らず、一ヵ月許りの独居から戻って来た。Aは、直ぐ先方に断りを出した。切角決心をし、どんな鞄を持って行こうなどとさえ相談を始められたのに中止したと、夏休みに行って、始めて聴いたのであった。
自分の為に、きっさきを折られて、折角の楽しい予想が裏切られたかと思うと、私は、七十になった老父の為に相すまなく感じた。
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