様な感じがする。
 洗った髪を肩に下げて、一枚着物をうすくした体をあっちこっちと運んで、急に変った庭の様子を見て歩いて居る。
 丁度今朝抱いて居た雛がかえって、母親の茶色のムクムクな羽交の中で、時に、チチチチとつつしみ深い声を出して居る。
 麦の芽が萌えた様に、雛も萌えたと云う様な、のどかな気になる。
 幾羽かえったかまだ分らないけれ共、うす黄な、妙に足が後についた雛に早く会いたい。
 何か薬がとれると云う、細い幹に藤の様に下った白い小さい、リリーオフ・バレーの様な花が、静かな風にゆれて、折々かすかに、カサカサカサカサと云って居る。



底本:「宮本百合子全集 第三十巻」新日本出版社
   1986(昭和61)年3月20日初版発行
※1915(大正4)年4月4日執筆の習作です。
入力:柴田卓治
校正:土屋隆
2008年2月28日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
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