ニフードつきのマントを買い求めた。ちゃんと計画を立てて、須美子は買うべき物を選び、布地の丈夫さについてはときどき看護婦と相談した。あたりまえのなりをしていて、普通のパリのおばさんのように見える看護婦は、須美子から相談をうけると、世帯もちのいい女らしくその布地を指の間でためしたりして親身に相談にのっている。あらゆる角度から、女の購買欲をそそりたてるマガサンでの須美子の買ものぶりは、伸子を感服させ好意を誘った。須美子にはものを買うにも、ほんとに須美子らしいつつましさと清らかさがあって、山とつまれ、色とりどりに飾られた品物の山の中から、正直な小鳥が、自分にいるものだけを謙遜に嘴《くちばし》でひき出すように、おちついて選びだすのだった。
「お疲れになったでしょう、こまかいものばかりいじっていて」
 須美子は子供品売場から出ながら云った。
「もうひとところ、つきあっていただかなければならないんですけれど。鞄売場はどこかしら……」
 六階の鞄売場はプランタンのほかの売場より人気がなくて、棚の上まで大小さまざまのトランクの金具が光り、鞣や塗料の匂いがただよっているなかに男の売子が立っていた。
 須美子は、ゆっくりとそこを見て歩いた。
「手に下げられるような形の鞄の方がいいと思うんですけれど」
 船室で使うスーツ・ケースがいるのかと思ったが、須美子のさがしているのはそういう種類のものでなく、婦人向の気のきいた手まわり入れでもないらしかった。
「何というんでしょう、両方へくちが開く鞄がありますでしょう、すこし深くて――昔からある形だと思うんですけれど」
 陳列の間をさがして歩く須美子の足どりにも、眼つきにも、子供売場での須美子とちがった熱心さがあらわれていて、ほかの型ではどうしても彼女の役に立たないことが、はっきりしている風だった。
「きっと、はやりの型じゃないんでしょうね」
 根気よく売場を隅々までひとまわりして、おしまいに棚の上の方でやっと須美子の求めているらしい形の鞄が発見された。
「ああ、あれですわ、そうらしいわ」
 須美子は、背広を着た若い店員に、その鞄をおろさせた。茶色皮で、どちらかというと野暮くさい両開きの鞄を台の上へおいて須美子は丁寧にうち張りと縫めをしらべ、幾度も鍵のしまり工合をためした。そうしながらも、須美子はその鞄の容積を気にして内外から調べる様子だったが、その結果彼女は、もう一つ同じ型の鞄を買うことにした。
「とどけさせるの?」
 伸子がきくと、
「もてますでしょう、看護婦さんがいますし、どうせタクシーですから……」
 軽いけれども嵩《かさ》ばるカバンを両手に下げて、須美子は、やっときょうの買物の予定はすんだ、という表情になった。伸子たちはプランタンのなかの食堂で、あまりおいしくもない昼食をすました。そして、十四日の午後二時に須美子のデュトのうちへ行く約束をして、百貨店の前からタクシーにのった須美子の一行とわかれた。佐々の両親がパリを立つのもいずれ月末のことになっているし、双方の出発の日がせまらないうちに、伸子は須美子のために小さい計画を思いついたのだった。

        八

 今夜からは、両親のいないペレールの家の寝室につや子とねることになった。そこへ入って行ったとき、伸子は、何となしはじめて案内されたホテルの室でも見まわす時のような視線で、古風にどっしりとした室内を眺めた。
 このアパルトマンの四つの部屋のうち、伸子にとっていちばんなじみのないのが、両親の寝室であった。片隅に重々しく衣裳箪笥が立っていて、窓よりの壁の前では、化粧台の鏡の面に電燈に照し出されて室内の一部が映っている。大形トランクやスーツ・ケースが壁の下におかれていることは、日頃見ているとおりだったが、二つ並んでいる寝台の間にはさまれて立っている枕もとの小テーブルの上は、スタンドのほか何もなく、きちんととりかたづけられている。いつもはその上に、狭いばかりごたごたと、ものがおいてあるのに。
 多計代が、そのように始末して出かけたのはめずらしかった。そろそろ着ているものをぬぎながら、何となしその枕もとの卓のあたりに目をやっているうちに、伸子は、あ、と思いついて、頭からぬぎかけているスウェターの、毛糸の匂いのするなかで目を見ひらいた。いつもはそこに保の分骨を納めた例の錦のつつみものが置かれていたのだった。そして、そのまわりにセイロンの象牙でつくった象の親子だの、金糸とビロードでこしらえた花かごだのが、飾られていたのだった。
 そういえば、多計代はけさ家を出るときコバルト色に朱を細い縞にあしらった自分の旅行バッグを手からはなさなかった。多計代はジェネ※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]へ保をつれて行ったのだ。あすこに保がいれられていた。
 それにつれて、
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