様である。老年の叡智と芸術家としての不撓な洞察が、人間社会生活の現実の細部とその底流を観破ること益々具体的であるという状態であって、はじめて自然と人間関係についての見かたも、そのリアリティーと瑞々しさとを保ち得るのである。
日本の現実は多難であり、その多難の性質は、これまでの生涯において芸術家藤村の経験したどの時代にもなかったものである。アルゼンチンへ行き、そしてかえり、今日の苦しい世界を通って来た老藤村が、果してどのように洗われた感覚をもって、日本の自然を生活の間につかみ直すか、多くの関心を抱いているものの一人である。
これらのことは、漱石の内的生活の矛盾をてりかえすものとして現れている自然と人間社会との離反についても、私たちに何ごとかを考えさせるのである。
底本:「宮本百合子全集 第十一巻」新日本出版社
1980(昭和55)年1月20日初版発行
1986(昭和61)年3月20日第5刷発行
親本:「宮本百合子全集 第八巻」河出書房
1952(昭和27)年10月発行
初出:不詳
入力:柴田卓治
校正:米田進
2003年2月17日作成
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