傍に出て、ごちゃごちゃになって居ます。
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と云う。
私はハット思った。
さてこそ、到頭入ったな?
頬かぶりで、出刃を手拭いで包んだ男が、頭の中を忍び足で通り過ぎた。
私は大いそぎで、まだカーテンが閉って居る寝室の戸を、ガタガタ叩きながら、
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「お母様! お母様! 早くお起なすって頂戴。
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と云うと、もうさっきから起きて居たらしい母の顔が、すぐ出て来た。
私は自分でも気の付いたほど、喫驚《びっくり》し、へどもどした顔をして、用箪笥の一件を報告した。
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「そいじゃすぐ交番へお出って。それから、皆なそのまんまにして置かなくっちゃいけないよ、すぐ行くから。
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その中に弟達が皆起き出して、面白半分に、
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「泥棒が入ったんだって? どっから入ったの? 誰か見つけた?
「何故僕起さなかったんだい。泥助の奴なんかすっとばしてやるのになあ。
「いつ入ったの? 僕の本持ってっちゃわないだろうか。
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などと口々に騒ぎ立てるので、家中はすっかり大騒動になって仕舞った。
私は、紺がすりの元禄袖の着物に赤い小帯をチョコンとしめたまま、若し何処か戸じまりに粗漏な所があって、其処からでも入られたとあっては、ほんとに余り気が知れていやだと思って、故意《わざ》と閉めたままになって居る家中の戸じまりを見て廻った。
湯殿から水口から、どこの隅までもゆうべ鍵をかけた通りに釘がささり、棧が下りて、鼠のくぐったあとさえもない。
それに足跡もなければ、どの部屋にも紛失物がないので、何が何だか分らない様な心持になって仕舞った。私の部屋の彼那ぼろ雨戸でさえちゃんとして居て、中に一杯ちらかって居る紙屑も本も、玩具も、何一つとして位置さえ変って居ない。
「入るにしても、余程巧者な泥助だ」と思いながら彼方此方歩いて居ると、じきに三十形恰の人のよさそうな巡査が庭木戸の方から入って来た。
家中の者は、此のたった一人の「おまわりさん」が家の者を気味悪がらせた泥棒の始末を付けて呉れるのかしらんと思いながら、ズラリと立ち並んで、第一の発見者である私が、最初の模様を細かに説明した。
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「フフン、そうすると何ですな、矢張り外から入ったで
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