貞操について
宮本百合子

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)縛《いま》しめ

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)分別ある[#「分別ある」に傍点]結婚から、
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 私たちが、或るひとつの言葉からうける感じは、実に微妙、複雑なものだと、びっくりする。たとえばここに貞操について、という表題がある。これを見たとき、私たちの心に直感されたのは何だろう。貞操というもののたしかな価値の感じだろうか。それとも、それは現代生活の波瀾のなかで、婦人帽のはじにちょっと下げられた一ひらのヴェールのように、その不安定さ、あいまいさの故に却って風情と好奇心とを、ひかれるような言葉として感じられるだろうか。
 貞操というような言葉をきいたとき、今日の若い多くの人々の眼の中には、その言葉に圧迫されたり拘束を感じたりするような色はもう見えない。それにかわって、一体貞操というものの本質はどういうものだろうかと問い質したげな輝きがつよくあらわれて来たのである。今日、世界のいたるところで、過去の価値評価がくつがえされつつある。政治上の権力においても、又風習においても
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