突然非常に大きく、
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「嫂さん。
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と投げつける様に叫んだ。
苦しくて苦しくて堪らない息を吐くと一緒に夢中で出た様なその声は太く短くかすれて居た。
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「え?
え? 何ですか。
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母は体を曲げた様であったがあんまり恐ろしかったので私は隙き間から目を離して、しっかり瞼をつぶって仕舞った。
此の次はどんな声がするだろうと思うと、急に心臓の鼓動は激しくなり喉元で息をしながら動きもしずに立ちすくんで居ると、急に明るい光りが薄い瞼を透して感じられたのでハット思って目をあくと、目の前にはいつもより大変大きく見えた母が立って居た。
あんまり意外だったので、声も出なかった私は、ボンヤリ立って居ると、
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「まあお前は……
さあ彼方へ行って寝て居ましょう。
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と云いながら母は元の部屋まで送って来て、パタパタとたたきつけると、
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「今御用がすんだらすぐ来ますよ。
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とすぐ又独りぼっち置いて行ってしまった。私は暫く眠られないで怖わい思いをした。
けれ共いつの間にか子供の正体ない眠に落ちて、翌朝一人でに目をさまして見ると、昨夜の事は嘘の様に静まり返った家中は水を打った様であった。
女中の話で昨夜の夜中に叔父と母や其の他の者は又病院に行って仕舞ったと云う事を知ったけれ共別段驚きも悲しみも私の心には起らなかった。
学校が無かったのか行かなかったのかして、弟とその時分しきりにして遊んで居た「お姫様と小馬」と云う私共丈の遊びをしたりして居ると多分昼頃だったと思う、母が眼を腫らして茶色の雨ゴートを着たなり一人でポツンと帰って来た。
叔父は到頭亡くなって仕舞ったのであった。
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「お叔父ちゃんが死んだんだって?
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死ぬと云う事のはっきり分らない私は、勿論非常な悲しみも感じ得られなかった。
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「おとといまで彼那にお話をして下すったお叔父ちゃんが死んじゃったって?
どんなんなったの。
え?
こわい事?
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私はすべてが信じられなかった。
彼那強そうな体のお叔父ちゃんが勿論繃帯はして居たにしろ急に死んでもうじきお
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