長寿恥あり
宮本百合子

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【テキスト中に現れる記号について】

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(例)[#地付き]〔一九五〇年六月〕
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 九十歳の尾崎行雄が、きこえない耳にイヤ・ホーンをつけて、「ちょっととなりへ行くつもりで」アメリカへ行った。九十歳まで生きている人間そのものが、アメリカで珍らしいわけもない。「日本の憲政」の神様とよばれた彼が九十であるところに、何かの意味があったのだろう。
 アメリカへ行くとのぼせて、日本人に向っておかしなことをいう日本人は、冬のさなかにサン・グラスをつけて、フジヤマ・スプレンディッド(素晴らしい富士山)と叫んだ田中絹代ばかりではない。池田蔵相もだいぶおかしくなったらしい。尾崎行雄は年甲斐もなく亢奮して、日本の国語が英語になってしまわなければ、日本で民主精神なんか分りっこないと放言しているのには、日本のすべての人がおどろいた。元来民主主義は英語の国から来たものだからだそうだ。
 カクテール・キングとあだ名されるバオダイ・ヴェトナム王でさえも、まさかヴェトナム人の言葉が外国語になればいいという「くだ」はまいていない。そう
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