この家独特のロシアの貴族? の一団によるバイオリンやヴオーカルがはじまり、婦人の出る時は、その度々電燈が消された――踊り手だけを照らしつゝ――」云々と。一九二九年以後ヨーロッパ、特にフランスの事情は一変して、漫遊客の数は今日劇減している、思えば我が一家は、世界事情が将に一転化しようとするその前夜、未だ夥しくヴルヴァールを彷徨していたアメリカ人の間に計らずも互していたのであった。
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書簡(四〇)
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註。この旅行へ出発した朝、車が本郷一丁目辺まで来た時、父は自分が紙入だか何か忘れて来ていることに気付いたのだそうであった。国男がいそいで引かえし、特急に間に合わせようとしたが到頭駄目であったので、金は電報為替にして送り、紙入その他は又別に送ったりした由。この秋、父は何年ぶりかで、計らず最後となった奈良の古美術足脚をしたのであった。
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底本:「宮本百合子全集 第二十五巻」新日本出版社
1981(昭和56)年7月30日初版発行
1986(昭和61)年3月20日第4刷発行
初出:「中條精一郎」国民美術協会
1937(昭和12)年1月発行
入力:柴田卓治
校正:土屋隆
2009年8月9日作成
青空文庫作成ファイル:
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