も誘うのが自然だと思う。
 本がどっさりあることは、不幸ではない。けれども、現代は本の数はあるが、本のなかみへの愛や探求心や尊敬が随分低められて来ている。文学の領域について云えば、作品の現実が、そこで扱われている感情のありようにしろ本質的には通俗で、読者にその作品の背後の作者の生活態度までを考えさせる力に乏しいため、何かバラバラとめくられて、一寸目についた文句で買われたり、広告で買われたりする傾向をつよめている。
 女学校が、本の生きた読みかた、使いかたを教えないことは旧態依然で、しかも個人個人として、本へのそういう薄情の培われる文化の傾きというものは、多くの考えさせるものを持っていると思う。
[#地付き]〔一九三九年十二月〕



底本:「宮本百合子全集 第十七巻」新日本出版社
   1981(昭和56)年3月20日初版発行
   1986(昭和61)年3月20日第4刷発行
底本の親本:「宮本百合子全集 第十五巻」河出書房
   1953(昭和28)年1月発行
初出:「東京堂月報」
   1939(昭和14)年12月号
入力:柴田卓治
校正:磐余彦
2003年9月15日作成
青空文庫作成ファイル:
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