いは察するにあまるものがある。米子さんは、国民学校へつとめて病夫と自分の生活をささえ、大町氏の最後までかわることない真心をかたむけつくした。
 大町さんは、御良人の葬儀がおわるとほとんどすぐ上京して来た。そして、「ほんとうに、しばらく……」と力をこめていって、あとは何もいえず、しずかに涙をこぼした大町さんの姿を私が忘れることはあるまいと思う。
 あわずにいた何年かのあいだに、大町さんはみちがえるほど立派になった。こまかいさまざまの辛苦が、大町さんの誠実な人柄のうちにうけいれられ、こなされ、選択され、方向をととのえ、明日の日本のよりよい生活の建設のために献身する女性として、十分の厚みと、暖かさと、がんばりとなって来ている。人柄のよさというなかに、大町さんの勉学ぶりがある。これは将来の発展のために、たかく評価されなければならない点だとおもう。民衆の歴史の刻々の推進と、その前衛としてのわれらの党がおうている任務は、きわめて洋々たる前途をもっている。たっぷりした実践力のあることと、理論的発展の可能をもつこと、この二つは、欠くことのできない新しい活動家の資質である。
 立候補に決定して、わずか十
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