近所に出磬《でけい》山という妙な重箱よみの名をもった山があってその麓一帯何万坪かの田畑が今度買いあげられ、そこに兵営が出来ることになった。
秋のとりいれを待ちかねて、田畑はほりかえされ工事に着手されはじめた。一ヵ村が生計の道を新しく見出さなければならない次第である。誰しも思いつく兵営のぐるりの餅菓子屋だの、一寸一杯だのの店を開くのも今はたやすいことではない。
作っただけの米が自由にならないこと、夜の目も眠らず上げた繭を組合で内金だけで売らなければならないこと、村人たちはそれらの新しいことにまだ馴れにくいのである。
[#地付き]〔一九四一年一月〕
底本:「宮本百合子全集 第十七巻」新日本出版社
1981(昭和56)年3月20日初版発行
1986(昭和61)年3月20日第4刷発行
底本の親本:「宮本百合子全集 第十五巻」河出書房
1953(昭和28)年1月発行
初出:「日本農業新聞」
1941(昭和16)年1月1日号
入力:柴田卓治
校正:磐余彦
2003年9月15日作成
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