な風が吹かないしほこりは立たないし――高台寺あたりのしっとりした木下路を想うと、すがすがしさが鼻翼をうつようだ。とかく白濁りの空の下に、白っぽくよごれた桜が咲いている光景、爛漫としているだけ憂鬱の度が強い。
 けれども、今年は綺麗な桜が見られるだろうと楽しみにしている。私は或る郊外住宅地の住人となっているのだが、そこに見事な桜並木が数丁続いている。秋、落葉の頃もよい眺望であったが、花が咲いた暁、或は月のある深夜、人気なく花をいただいて歩いたら、さぞ興深いことであろうと思う。日本の春の美の一部がさっと本来の情趣をもって私の心を魅するであろう。
[#地付き]〔一九二七年五月〕



底本:「宮本百合子全集 第十七巻」新日本出版社
   1981(昭和56)年3月20日初版発行
   1986(昭和61)年3月20日第4刷発行
初出:「婦人倶楽部」
   1927(昭和2)年5月号
入力:柴田卓治
校正:磐余彦
2003年9月15日作成
青空文庫作成ファイル:
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