を客観的に評価し、重要な書名を記録して居られる。「なお翻訳が一つあります」と楊子さんにあてて語られているのは、アグネス・スメドレイの「女一人大地を行く」であろう。この物語そのものが卓抜な若い女性の生活建設の物語であるばかりでなく、私に尾崎秀実という名とスメドレイという名とを教えた最初の本であった。
「楊子は自分でものを書くようになったら『尾崎秀子』と改名するのもよいかと思います。お母さんの音とお父さんの秀の字とを含んで少し女にはきつい字ですが、それもよいでしょう。」この一句は、無量の思いをつたえる。愛のこころはこのように小粒な、しかも歳月によって磨滅することのない表現のうちにこめられているのである。涙は眼に溢れるけれども、頭は昂然と歴史の前途に向ってもたげ、愛と勇気と堅忍とをもって民主の日本を生きようとするすべての精神にとって、この一巻の書簡集はおくられるのであると思う。
[#地付き]〔一九四六年九月〕



底本:「宮本百合子全集 第十七巻」新日本出版社
   1981(昭和56)年3月20日初版発行
   1986(昭和61)年3月20日第4刷発行
初出:「愛情はふる星のごとく」のあとがき、尾崎秀実著、世界評論社
   1946(昭和21)年9月発行
入力:柴田卓治
校正:磐余彦
2003年9月15日作成
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