或は穢されるということのあり得る事実も明白である。
 進歩党は、過般、築地の待合金田中へ、数人のお歴々女史を招待した。そして、参集した何人かの女史に、党内の重要な椅子を提供した。
 金田中といえば待合政治の根城として、誰知らぬ者はない。女も古参女史になれば男と同等、政治談合を待合でやって冷汗も掻かなくなるものかと、笑ってすぎることであろうか。
 戦争の惨禍と、人民生活の犠牲。なかでも弱い女の蒙っている打撃の致命的な深刻さを痛切に理解し、一刻も早い適切な処置を思うなら、戦犯で潰れた反動政党へ、どうして女が入られよう。家庭を奪い、愛する男たちを殺し、傷け、今日の日本をもたらした、その戦犯の仲間に、女である、という唯一つの理由からだけでも、入ることを愧《は》ずべき十分の根拠がある。
 フランスの婦人が参政権を得たのはつい先頃のことであった。三十数名の婦人代議士が選出されたなかに多くの未亡人がある。これら喪服をつけて立つ婦人代議士は、再び戦争というもののない世界のために協力し、参加しようとして立っている。裂かれた胸と血涙とをとおして、平和をもたらす決心かたく、女性の叫びとして立ったのである。
 手にとったばかりの参政権を、使うより前によごしてしまう今日の古参婦人指導者[#「指導者」に傍点]たちの堕落を、生活のよりどころなさから性的に失墜した無産婦人の悲劇と見較べたとき、人は、いずれを真の堕落と呼ぶであろうか。

          三

 モラトリアムがはじまった。それが人民の幸福の建設に避けがたい道であるというならば、泥濘も私たち人民は歩き終せるだけの勇気をもっている。
 ところが、きょうの新聞に奇怪な投書が掲載された。モラトリアム発表前の十六日、正金銀行で、課長以上の行員たちが殆ど全部現金を五円札に代え、前交易営団総務課長は、二十万円の金を五円札で引き出したという事実である。おそらく、現にその手で事務を取らざるを得なかった同じ銀行の者が、その投書をかいている。
 私の財布には、偶然もち合わした、よれよれの五円札が二枚あるぎりである。狐の誑し遊びのように、ちょいと形を代えて細かい札にさえすれば、何十万円という金が、脱税出来るからくりとは知らなかった。インフレーションで悲鳴をあげているのは、実直な勤労生活者であり、モラトリアムで大いにあわてるのは「資本主義のからくり」に精通
前へ 次へ
全3ページ中2ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング