の着物などを見ましたが、これは作り上げるのに幾年もかかるので、オタカラと云って大事にしています。
 アイヌ婦人は柔順で人に話しかけられても、じっと俯きながら聞かれただけの事を返事する位であります。其の風俗も今日では内地人のような髪を結い着物を着ているので一寸見分けがつきませんが、古風な着物を着て、馬に乗りながら大きな林や広い野の一筋道を悠々と行く姿は、全く別の世界を見るようでございます。アイヌ人でも美しい人は矢張り色が白く、濃い眉に深みのある瞳を持っていますから黒っぽいアイヌの平生着と、よく調和して、その背景になっている北海道の大自然と、アイヌはしっくりと合っていますから一層趣が深うございます。

 今一つ云ってみたいのはアイヌの歌であります。彼等には文字がないので、昔からあった面白い歌も、口伝えに代々伝えられて来たのですから、忘れられたり、知っていた老人がなくなったりして歌の数もずっと減って了いました。その歌の節は内地の追分節によく似ていますが、元はアイヌの歌から初まったものかと思われます。
 アイヌの中には実に歌の上手な人があります。興に乗じて歌っている時は、身も心もすっかり歌の中
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