のようで、茅を上から重ねて葺いたのでなく、端を少しずつ残して段々を作ってある屋根の並んでいる前に、丸く切った大きな松薪が高く積れて、その軒辺に真白の梨の花(四五月の頃)の咲いている所は、何とも云えない趣がございます。
家の内部は入口に土間がありまして、その次ぎに居間があります。この土間は畑に出来るいろいろな作物を収穫《とりいれ》る時使うので、何処でも可成り広く取ってあります。居間は以前は地べたに敷物を敷いたばかりでしたが、此頃では大抵の家で低い床を張っているようであります。私は或る日、アイヌの旧家に行ってみましたが、三尺の入口に菰が垂れていて、その菰を押して入ると奥は真暗で、そこにまた真黒な犬がいました。そして地面には蓙《ござ》が敷いてありますがお客があると取って置きの蓙《ニキノ》を出してすすめます。お客用のだからと云っても、矢張り黒く煤けていました。
それでも窓は東と南に開けてありまして、何処の家でも、東の窓は神聖な場所として、此処にイナオと云う内地の御幣に当るものが立ててあります。イナオは木で作った先きの方をじゃがじゃがさせた一種の木幣で、家の守護神様、穀物の神様、水や火の神様
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