の心になっていると感じるのは私の誤りだろうか、実朝は、切な歌を多く遺した。
合本になっている順で、新葉集の歌もちょいちょい目にふれたが、私はすきになれそうな気がしなかった。憤り恨みが表に立ちすぎている――技巧の上の問題などではない。あれ等の歌も遺した人々の心の全部を其のような激情が占領していて、花を見ても月を見ても、純粋に花の美しさ月の輝かしさを愛せなかった不幸を、超脱しようとしない心の凝固が、芸術品としての歌に、渾然とした命を与えていないらしい。
これは、まるで方面は違うが、一寸物ずきで、パンカアスト夫人の自伝をのぞいた。彼女は何と云っても女性文化史の上に特*ある一点を描く人だが、最初に、自分が物心ついてから或る感激を以て聴き記憶した第一の言葉は自由、正義と云う文句だ、と云うような意味を書いている。さて本当に子供の自分が其那ことを明瞭に感じたのだったろうか、と疑って見ようともしないところが、彼女の彼女たるところと、面白く感じた。
[#地付き]〔一九二四年五月〕
底本:「宮本百合子全集 第十七巻」新日本出版社
1981(昭和56)年3月20日初版発行
1986(昭
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