活者の一見平凡な、しかも巨大な歴史性の上にいとなまれている生活の、芸術的再現に向ってそそがれるべきであろうと考えられた。
『郷土』創刊号の編輯は『関西文学』とは違ったジャーナリスティックな性質において都会的である。が、雑文「瓦職仁儀」や創作「養蚕地帯の秋」などは、地方の生産、それとの関係においての人々を描き、興味があった。文学のひろびろとした発展のために無規準な地方色の偏重は不健全におちいるのであるが、その地方の生産に結びついている大衆の文学的欲求とその表現とがより潤沢に包括されればされるほど、その雑誌は文学の中に地方の現実の着実な観察を反映するものとなって、その地方の読者をよろこばせるばかりでなく、他地方の読者を益することも多くなって来る。
そういう意味で『鋲』『文芸街』の作品、『主潮』の詩「落穂ひろい」小説「中農の伜」「違反」「雑草」など、作品としてはいろいろの未熟さその他の問題をふくんでいるとしても、作品が生活から遊離していない点でやはり読者の心をひくものをもっていると思う。
終りにのぞみ、何心なく『文芸街』の頁を繰っていたら『九州文化』などいう雑誌の名も見え、東京で発行され
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