の創造力を発揮した。戦法に於て驚くべきパルチザン闘争をした労働者、農民たちは、文化の面で全く新しい文学作品を送りだした。一人一人の人が当時のソヴェト同盟に於ては新社会建設の英雄であり、自身として喜びと誇りをもって語るべき何物かを持っていたのであった。
 私が最も知りたく思ったことは一九四一年から始った祖国防衛戦の英雄的な経験と世界史的なその勝利との経験は、どんな新しいソヴェトの文学を生みだしているであろうかということであった。
 偶然ワンダ・ワシレフスカヤの「虹」を読んだ。この作品は恐らく現代文学の最も勝れた収穫の一つであろう。この作品には自分たちの生命と、ともにある自分たちのソヴェトの生活を護ろうとして、言葉尠く、勇気と、智慧と、あらゆる堅忍とを以て侵略者と闘ったウクライナの男女農民の姿が見事に描きだされている。作者のワンダ・ワシレフスカヤは周知の通り、ポーランドの人民解放委員会の委員長として政治的経験も極めて深い婦人である。ソヴェト同盟の民主主義とその現実とは、生きた激しい歴史の過程の中で、ワンダ・ワシレフスカヤのような新しい作家の一典型を生み出している。この実例は多くの人の心を打ったと思う。何故なら、これまでの世界文学はいつも「政治と文学」の問題を、対立する二つの要素のように考えて、その課題の解決に議論を重ねて来ていたのであるから。ソヴェトの歴史と経験はこの問題を、その肉体で解決しているように見える。
 自身の社会の建設と発展の為に生きること、その道の上に生じる闘いと、憩いと、憤り、悲しみ、喜び、一切の事象と情熱とは、とりも直さず生きてゆく必然の政治そのものからの照りかえしであり、人民の胸に燃える表現の欲望は、それらを自ずから物語ることで先ず文学の一歩を踏みだしている。自分達で創り、育て、守り、高めつつある社会に生きているという日常現実の中に、政治と文学とは融合ってしまっている。唯そこには、より文学的に、より芸術的に表現する才能の違いが存在しているばかりである。
 これは、一九一七年以後のソヴェト社会が、この世界に齎《もたら》した一つの新しい人間性の豊富さである。一九一七年以来ソヴェトがたえず押し進めてきた人間の立体的な社会生活の方向が、このたびの防衛戦という大刺戟によって、破壊から巨大な建設へと、全人民の経験を転化させる可能を与えた。
 一九三〇年頃のヴェラ
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