き方にヒロイズムを描き出している。汚れをいとわないとか、古くさい結婚の形にしばられない感情の冒険とかいうことの現実をみると、結局は社会の経済生活の崩壊による女性の男への寄生的生活の合理化であり、広汎な売娼生活の合理化だということが分ります。

        五 人民的なオーケストラ

 何故こんなにしつこく社会と文化の今日のありようについて、わたしたちは追求せずにいられないのでしょう。わたしたちの心にあるこの抗議と抵抗の動機は、人間らしい、美しい、瑞々しい人生をもちたいという痛切な願いからです。わたしたちみんなの心にこの訴えがあります。わたしたちは、ただ一度しかない人生をいとおしみます。このやわらかい心。やわらかい心が苦しんで訴えるさけび。さけばずにいられない心がむすびあって結集した力。これが現代のわれわれのモラルであり、抵抗です。わたしたちの生きてゆく感覚そのものがより美しいものを求めて社会悪に抵抗する。感情そのもののせつない動きが、いなずまのように社会の価値判断の急所を射つらぬいてゆく。そのような殺しても殺しても生きる命としての抵抗力、強い生活感覚、それこそが、きょうの歴史を生き進んでいるわたしたちの人民的センスであり、抵抗の源泉であると思います。生活と闘いの達人となってゆこうと努力しているわたしたちにとって、理論と行動、思想性と階級性というようなものは、ひっくるめた新しいヒューマニズムとして、すっかり身体の中に入ってしまっていて、それはわたしたちのリズムであり、センスであるところまで行っていいと思います。
 正しさは同時に美しさとして感覚されるようにつよくなりたい。部分部分の理解をきりはなして屈服させられるようなことは、あり得ないものになってゆきたいと思います。[#地付き]〔一九四九年九月〕



底本:「宮本百合子全集 第十六巻」新日本出版社
   1980(昭和55)年6月20日初版発行
   1986(昭和61)年3月20日第4刷発行
底本の親本:「宮本百合子全集 第十二巻」河出書房
   1952(昭和27)年1月発行
初出:「学生評論」1号
   1949(昭和24)年9月発行
入力:柴田卓治
校正:磐余彦
2003年9月14日作成
青空文庫作成ファイル:
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