、科学者などの業績をはかることばかりでは一面的です。日本においては、繊維産業に働く女の子の生活と意識の水準がどの辺にあるかということが、必ずみられなければなりません。吉田首相がどんなに綺麗な白足袋をはいているかということではなくて、続々と失業させられている労働者の食べられるもの、着ていられるものは何か、田圃で働いている人々、苦しい中小商工業の人々の生活で、赤坊の着ているものはどういうものかということに、人民的生活の進歩の標準があるのです。
 一つの学校の中で、優秀な細胞があり、自治会があり、そこに属す学生はすべて頭脳明晰だということだけが、その学校全体の学生の精神水準を示すとは云いきれないし、日本の青年の進歩の総和的な標準だとはいえません。東大でも、伊藤ハンニまがいの山師がでているし、きわめてエクセントリックな性格と生活態度の女子学生が大阪の実家で弟に殺されたという事件があったし、法科の学生が教室でエロティックな映画を公開したというおどろくべきこともありました。女子の学校などでも一日に百二十本のアイスクリームを売って、汗にまびれてけなげにアルバイトして勉強している学生と、文化的な外見を
前へ 次へ
全33ページ中10ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング