かし、猥褻罪を取締るためには、そのための法律がある。どうせ悪質な出版をする者はその時々の情勢によって猥褻にもなれば怪奇にもなるのであって、もしひっくるめてそれを取締る法律をつくれというのならば、法律の条文としては「公安を保つ」というような文句が使われやすい。ところが、この「公安」という字は、御承知の通り日本では明治のはじめから真実の意味で「人民生活の公安」のために使われたことは、ただの一度もなかった。ですから、出版綱領実践委員会はエログロ出版取締のためという名目に乗ぜられて、新しい出版取締法をつくられる媒介になることはしまいとしました。これは正しい態度でした。
ところが、一年経ったらエログロ出版者たちは、おかしな風に右ねじりをはじめてきた。最近の「軍艦大和」の問題は、文学作品の形をとっていたから、文学者たちの注目を集め、批判をうけましたが、ひきつづきいくつかの形で二・二六実記が出て来たし、丹羽文雄の最後の御前会議のルポルタージュ、その他いわゆる「秘史」が続々登場しはじめました。なにしろあの当時、言論報道は全く統制されて嘘の大本営発表しか知らされなかったのだから、読者はこんにちあらわれ
前へ
次へ
全33ページ中4ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング