いう文章がありました。筆者の矢田喜美子という方は、どなたか存じませんけれども、この記事は、何となく私の心にのこりました。ヨーロッパから最近帰って来たある日本人が、今日の日本をみて、みんなの生活が無計画で、食えないといいながらたかいタバコをプカプカふかしている、政府はから約束をして、内閣がかわればそのまますっぽかしている。雑誌をひらけば現実生活と縁のない理屈をこねている。「現実から足の浮いた、頭でっかち[#「でっかち」に傍点]の日本人」というのが、その新帰朝者の感想だそうです。矢田喜美子さんはそれに同感していられます。
 けれどもね、みなさま。たとえば、あなたがたが、ことしの新卒業生として、無計画でしょうか。専門学校を出て、就職するとき、職場の選びかたをてあたり[#「てあたり」に傍点]ばったりした方があるでしょうか。実にきょうの若い真面目な女性は、精密なプランをもって、経済をやりくり、人生をくみたててゆく努力をしています。女学校を出て専門学校へ進もうという方々は、いわばまだ少女らしさの多い心の一方で、どんなに現実的に、学資のことを考えたでしょう。日本の中産階級は戦争によって、最も生活の安定を失いました。日本の女子教育はおくれているから、専門学校程度の勉強をするのは、これまでは中産階級の娘さんたちでした。本年ぐらいから、統計の上にもはっきり、専門学校を受験する女子学生の層がかわって、新円成金の娘さんがふえて来ています。普通の家庭の娘さんはアルバイトを考えずに、専門学校の生活を考えることは不可能になりました。アルバイトを二つもって医学の勉強をしているひとを知っております。彼女の二十四時間は何と計画的につかわれているでしょう。収入がどんなにこまかく割当計画されているでしょう。
 その新帰朝者という人は、こういう若い女性のいじらしい大努力に立つ計画性にはふれていない生活環境にいるのでしょう。彼の周囲には、ぐちをいいいいプカプカたかいタバコをすっている男たちがおり、彼のひらく雑誌は、抽象的論議だらけの旧型綜合雑誌なのでしょう。そして、最もおどろくべきことは、政治の面で、内閣のからやくそくとすっぽかしに対して、わたしたちの抗議がどんな形で示されているかまるで知らないことです。婦人労働者が平等の賃銀と母性保護を求め、女子学生が文部省のひどい月謝値上げに反対していて、男子学生とともに
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