かれたとき、幾人のかたがイエスとお答えなさるでしょう。ほとんど大部分のかたは、母のいとしさ、母への思いやりいたわりとは別に、これまで日本の女がおかれて来た生活の現実を、重くおそろしいものに見ていられるのが事実でしょう。母はほんとに尊敬します。ある意味で実にえらいとも思う。けれども、わたしたちの人生は、もっと別なものであるべきだと思います。母たちのことをしみじみ思えば、母への愛のためにも、わたしたちはもっとちがった人生をくみたててゆかなければならないと思う。私は、現実に幾度もこういう話題について語る若い方々の意見をきいております。
現代の世紀には、世界じゅうの女性が、それをきらっている一つの言葉があります。それは「歴史はくりかえす」という言葉です。現代の世界じゅうの女性にとって、「歴史はくりかえす」という一つの言葉は、次のようないくつかの質問となります。
[#ここから2字下げ、折り返して4字下げ]
一、あなたは、また戦争がほしいですか。
二、あなたは、あなたの姉や先輩たちがそういう経験をして来たように愛人や良人を失いたいですか。
三、あなたがたは、未亡人が御希望ですか。
[#ここで字下げ終わり]
こういう不自然な質問に対して誰が、いやだ、と答えないでしょう。あなたがたは、つよい感情をこめてお答えなさるでしょう。わたしたちの人生は、まだ無傷です。傷ついたにせよ、若い命がすぐそれを癒す傷しかもっていません。呪うような質問なんかやめて! わたしたちは生きたいんです、つよく、たのしく、不屈に生きたいんです。きっと、そうしか答える言葉をもっていられないと信じます。
若いかたがたの心もちに立ってみれば、そうしか思えないのが本当です。でも、その真直な人生への希望を実現してゆく道は、一度か二度の、若々しくつよい感情表現だけで、きりひらかれてゆくでしょうか。特にこの日本で。――この民主化をねじまげる古い力のつよい日本で。――
わたしたち日本の明日の女性は、世界のどの国の女性にもまして、「歴史はくりかえす」という利口ぶったいいまわしに抵抗しなければ、どんな幸福も保証されません。日本の新聞は、なんと恥しらずに戦争挑発をしているでしょう。アメリカの科学者たちが、アインシュタインをはじめとして、人類の平和のための原子力の使いかたを主張していることは、くりかえして報道しないで、こんど
前へ
次へ
全6ページ中2ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング