する、そういう過去の残滓との闘いの面にも払われなければならないものである。そのことを「愛情の問題」において作者が念頭に置かない一般の情勢であったこと、それらが私たちの心をまじめな感想にひきこむのである。
 種々のゆがみをもちつつ、献身的な努力でともかく今日まで押しすすめられて来た運動の段階にあって、私たちは大きい成果の上に生きていると思う。
 時間的に四五年といえば短かいがその間急速に激化した闘争は、広い範囲で運動内における女の活動家をも増大させ、実際の感情として、個人の感情利害と階級の感情利害とは、一致せざるを得ないところまで具体的な条件において高められて来ている。かつて長谷川如是閑氏は、個人的感情を階級の義務の前に殉ぜしめることを主題としたプロレタリア文学に対して、「新しいつもりか知らぬが、義理のしがらみに身をせめられる義太夫のさわりと大差ない」という意味の評をしたことがある。私はその言葉を心に印されて今なお記憶しているのであるけれども、そのような批評を可能ならしめた、階級感情の小市民的分裂は、この二三年間の画期的鍛錬によって、一般的に統一の方向にむかい、もとの低さに止ってはいない
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