んな問題がどう片づくというんだ。そんなことで部署をすてて、それでこれからどうするというんだ?」
「だって――だって――」彼女も亢奮して一生懸命だった。
「あんまりきたなすぎるわ、まるで泥まみれじゃない」
「泥まみれになるのが厭か」彼は笑った。
「泥まみれも事によると思うわ」
「そうか。泥まみれの選り食いも好かろう。だがな、そんな問題が起るたびに部署をすてたんじゃ、限りない退却があるばかりだ。俺はそんな敗北主義には賛成しないな」
 やがて若い階級的な妻である女は、自分が良人のところへかけ込んだことを自己批判し、終局に「物事が乱れるような結果になるかもしれない。けれどもそれが何だろう」あらゆるものを投げ出したものに貞操なんか何だ? そして石川という共働者との場合には逃げ出した彼女は、「もっともっと自由な女性を自分の中に自覚していた、たとえ肉体は腐ってもよかった。革命を裏切らず、卑怯者にならずに自分を押しすすめてゆく途中で、どうせすてた体だ。もはや彼女にとって革命以外に大切にするものは何もないのだ。貞操ばかりをこわれ物のように気にかけていたら、それでどうなるというのだ」と、可憐にも当時の不十
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