泉山問題について
宮本百合子

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(例)[#地から1字上げ]〔一九四八年十二月〕
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 第一私どもの目からみると議会内の大蔵委員会という重要な新給与予算の委員会席上で、あんなに酔うほど酒がでるということがそもそもひどいことだと思います。なにもうちでのめない連中ではなし、ごあいきょうの程度をこえています。公務員法をむりやりとおしてはじめからきらわれている吉田内閣は新しい選挙をひかえて、いくらかでも人気をとりかえすために食糧問題や転入自由の景品をだしました。「住宅問題の解決や賃金問題の解決はぬきにして」きたるべき選挙に今日の政府は勝算をもっているかもしれない、それだから組閣のはじめに用心深くさまざまの疑獄事件にひっかかりそうな閣僚をさけました。社会党のくされぐあいがあんまりひどかったおかげで吉田内閣にそれよりはましな人のあつまりのような利益をあたえました。
 選挙をまえにして民自党はどんなにいい評判をとりたいでしょう、ところがおきの毒さまにも十三日の新聞にあらわれた泉山蔵相の事件のようなことがあらわれて最後の幕切れとなった。要するに吉田首相とその乾分は世界のブルジョア政治家も裏面でしかあらわさないような男としての醜態を参議院で演出してもう民自党に投票してくれないでもいいんだということを天下に声明しました。
 男が酒をのんで女にからむということは恐らく日本にだけ通用する乱行でしょう、なぜなら中国のブルジョア政治家は日本のよっぱらいをみて、あの人々はなぜ酒をのまないで酒にのまれているだろうと驚いていました。日本の封建性――殿様とだんな様との御乱行がいつもそのめしたのものや女に向ってあらわされるというなさけない習慣です。泉山蔵相のくだのなかで「新給与問題よりも山下春江(民主)女史の方がすきだということの方が問題だ」といったということが新聞にでていますが、これはなまよい本性にたがわず、本音でしょう。もちろんあとから本人にきけば「何もおぼえていない」でしょうが極東裁判で天皇が責任をもたないということを明瞭にされて大変によろこんだのは誰だったでしょう、国民はそれをよくしっている。
 私達常識人からみると、これは一公人として無能力であったことを世界に証明してもらってありがたいということ
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