近いうちにきっと御目つけになれましょう、そうに違いありませんワ、自分のすべき事を真面目にして行く時に一人手に自分を待って居るものが見つかりますもの。
これから私達は救け合ってお互に幸福にだれにも似せる事の出来ない生活をして行かなくっちゃあねえ」
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千世子はいつもとは人の変った様な調子でこんな事を云った。自分の頭の上が光って居る様に感じながら千世子はジーッとHのかおを見た。
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「アア――神様……」
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Hは目をつぶってうつむいていつまでも頭をあげなかった。
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「貴方が私を忘れさえしないで下さればほんとうにその方が幸福かも知れません、私達は仲よくそうして考え深く――」
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しばらく立って顔をあげたHはその白い千世子のすきな額と濃い髪を尊い様に見せながら口の辺に笑いをうかべながら云った。
二人は新らしい生命をうけた様にその日っきり今までお互に迷って居た事は忘れる事にした。
千世子はしんから迷わなくなった。
あけてもくれても真面目に輝いた目をしながら書いたりよんだりして居た。
Hには、忘られる様で忘られない千世子の顔を見ると、先に云った事をくり返したい様な気持になった。
女のとりすました、考えてばかり居る様な顔や目を見ては、
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「もう忘れましょう」
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と云った言葉に対しても又女の様子に対してもそれを再び云い出す事は出来なかった。
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「時が来たら……」
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Hはそればっかりをたのみにする様に思いながら前よりも繁く千世子の家へ出入りした。来るたんびに悲しい気持になりながら、
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「でもまだ私をすきがっては居る、顔が青いとか頭が痛そうな目つきだと云って居た。
今はそれで満足して居なくっちゃあならない。時が来たら――」
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とくり返して居た。
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「時が来たら――」
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心にくり返しながら、Hは源さんと云う人が居る――と思った事もあった。
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「横どりされたんじゃああるまいか……」
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源さんと一緒になれる様にねがいながら度々千世子の
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